2021年7月から5回にわたり次世代エネルギーについてご紹介してきました。最終回となる今回は「地熱発電」について紹介します。「温泉大国」と呼ばれる日本。温泉が多いということは、それだけ火山活動が活発ということです。日本は地熱(地球内部の熱源に由来するエネルギー)が豊富で、資源量としても世界第3位を誇ります。再生可能エネルギーの中でも太陽光や風力発電のように天候に左右されないためベースロード電源として期待される一方、本格的に大規模運用を開始するまでには解決すべき課題が山積みです。どうすれば純国産の再生可能エネルギーとしてもっと普及させられるのでしょうか?
何かと話題の次世代エネルギーについて学ぼう!⑤地熱発電
- 電気
そもそも、地熱発電とは
地熱発電のエネルギー源は、地中にある「地熱貯留層」から取り出す蒸気です。地表から浸透した地下水は地球内部で対流するマグマにより温められ、高温・高圧の熱水や蒸気となります。井戸(生産井)を掘ってこれらを取り出し、発電に利用するわけですが、通常その層は地下30~50km付近にあるため、技術的にも現実的とは言えません。
しかし、もっと浅い位置(地下1~3km付近)に地熱貯留層がある場合があります。それが、温泉地に代表されるような、マグマ溜まりが浅い場所です。こういった場所では生産井の掘削が比較的容易です。生産井を通じて取り出した高温の蒸気を、火力発電所でいうボイラーの代わりとしてタービンを回転させるのが一般的な発電方法です。
地球内部から取り出した蒸気を用いた発電方法であり、燃料を燃やす工程もありませんので、もちろんCO2の排出はありません。そのうえマグマ溜まりの寿命は数万年~数十万年といわれています。発電に使用した後の熱水を地中に戻す「還元井」をあわせて活用し、計画的に運用することができれば、永続的に利用可能なエネルギー源として考えることができるのです。
普及へのハードルは?
最大のハードルは、何と言っても適地の約80%が国立公園などの自然公園の中にあることです。環境省は「地熱開発は、国立・国定公園の自然環境保全上重要な地域では、原則として認めない」という方針でした。環境保護や景観の維持のため、発電施設の建造が難しかったのです。しかし、2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画で「2030年までに再生可能エネルギー比率を約36~38%に引き上げる」というという目標が示されたこともあり、規制緩和に向けて動き始めています。
ただし、地中内部の資源を利用する以上、自然環境への影響はやはり考慮しなければなりません。地上・地中のどちらも、場所によって地形や生態系、気候条件などは異なります。規制が緩和されたとしても、開発を行う際には慎重な事前調査が不可欠となるでしょう。
自然公園以外で適地として考えられる温泉地でも同様の懸念があります。温泉事業関係者や地域住民の不安を払しょくすることは必須課題と言えます。なお、温泉は「温泉帯水層」からくみ上げられますが、地熱貯留層は地下の深度が異なるため、これまでに悪影響が確認された事例はありません。影響評価(アセスメント)が継続的に行われるケースが多いのは、地元の方々の安心や信頼なくして成り立たないことを開発側がきちんと理解している証なのでしょう。
その他、発電効率の向上も課題です。発電の原理は火力発電や原子力発電と同様ですが、炉内の温度は火力や原子力には及びません。このため、火力・原子力の発電効率が約30~40%であるのに対し、地熱発電は10~20%。効率的にエネルギーに変換できる技術の開発が待たれます。
まとめ
地熱発電の発電量は日本の総需要の約0.2%とまだごくわずかですが、東北と九州を中心に稼働している地熱発電所はすでに20ヵ所以上。中でも最大規模の八丁原発電所の設備容量は11万kW(調べてびっくり、日本テクノが所有する発電所と同じ規模でした)!これは一般家庭約3万7千軒分の電気に相当します。環境省では「地熱開発加速プラン」の推進により、地熱発電設備を現状から倍増させる計画があるようです。事前調査などで懸念点を着実にクリアし、安心・安全でクリーンなエネルギー供給が加速するといいですね。
「何かと話題の次世代エネルギーについて学ぼう!」シリーズ記事、全5回にわたりご覧いただきありがとうございました。次世代エネルギー入門編としてお役に立てたなら光栄です。今後ますます拡大していくであろう再生可能エネルギーの未来に期待するとともに、技術開発や手法確立など、新しい情報を楽しみに待ちたいと思います。