次世代エネルギーについて紹介する本シリーズ。第3回となる今回は「洋上風力」について紹介します。風力発電自体は太陽光発電とならぶ代表的な自然エネルギーとして認知されていますが、日本の総発電量に占める割合は0.9%程度であり、太陽光発電に比べて約10分の1にとどまっています(2020年度)。再生可能エネルギーの中で水力に次ぐ発電効率(20~40%)を誇る発電方法であるにもかかわらずなかなか普及が進まない理由と、今後普及のカギを握る「洋上風力発電」について解説します。
■シリーズ記事はこちら:
●何かと話題の次世代エネルギーについて学ぼう!①水素エネルギー
●何かと話題の次世代エネルギーについて学ぼう!②アンモニアのエネルギー利用
何かと話題の次世代エネルギーについて学ぼう!③洋上風力発電
- 電気
そもそも、風力発電とは
「風力発電」というと、海のそばや丘のうえに建つ巨大な風車が連想されるのではないでしょうか。風力発電設備は強い風が吹く地域に建設されることが多く、羽根部分(ブレード)に風を受けて回転させ、その回転で発電機を回し、発電します。発電機にはブレードの回転を一層加速させる「増速機」や風を正面から受けるための「方位制御機構」、ブレードの角度で受ける風の量を調整する「可変ピッチ機構」といった設備を備えており、発電の効率化が進んでいます。
風力発電は燃料を必要としません。温室効果ガスを排出せず使用済み燃料の処理も発生しないため、環境にやさしいクリーンなエネルギーです。動力が「風」であるため、資源の枯渇を心配する必要もありません。一方で、台風などの暴風時には設備の損傷や事故の恐れがあるため稼働させることができません。また、設備の建設費用が太陽光発電などと比べると高額である点や、季節や天候に左右されるため安定的に発電できない点、年間を通して強い風が吹く適地が限定される点など、拡大に向けてのハードルは高いのが現状です。日本の場合、欧米に比べて国土が狭いため、風切り音による騒音対策が発生しやすいという難点もあります。
日本にぴったりな「洋上風力発電」とは?
欧州では総発電力の15%を占めるほど普及している風力発電ですが、上記の理由で日本ではあまり普及が進んでいませんでした。しかし技術開発が進み、陸上にしか建設できなかった風力発電設備が「洋上」、つまり海の上に建設できるようになったことで潮目が変わりました。海上は陸上に比べ立地に関する制約が少なく、風速も強いため、安定的かつ効率的な発電が見込めます。
施工方法は「着床式」と「浮体式」があります。海底に設備の基礎を固定し建設する「着床式」は、主に遠浅の海が広がる欧州では20年以上も前から建設・運用が進められてきました。しかし「着床式」は、近海で水深が急に深くなる日本沿岸には向いていません。そこで近年開発が進んでいるのが、「浮体式」の洋上風力発電です。この方法では、洋上に浮体構造物を浮かべ、その上に発電設備を建設します。浮体構造物は強度の高いケーブルとチェーンで海底に固定します。周辺の潮流や漁業といった環境面への影響のほか、海域利用のルールなど制度整備、送電網への接続や建設コストといった課題はありますが、これらを解決することができれば一気に普及することが期待されます。
まとめ
実は2015年頃から、風力発電の建設は急増傾向にありましたが、稼働実績には表れていません。これは、「環境アセスメント」と呼ばれる導入手続が平均して約5年、大規模設備では7~8年以上もかかるためです。2020年に政府は洋上風力発電の普及に向け、「洋上風力産業ビジョン(第1次)」を掲げ、官民一体となった開発に動いています。2021年に入ってから大手企業が次々に海外の風力大手と提携したり、2021年9月には環境省が洋上風力発電の環境アセスメントを最大2年短縮する事業を発表したりと、官民を挙げた普及促進に向けた動きがみられます。 洋上風力で生み出されたクリーンな電気で生活する未来はすぐそこまで迫っているのかもしれませんね。
第4回では「波力発電」を取り上げます。お楽しみに!(2022年1月頃の更新予定です。)